LOGIN「フッ。当然だ。なかなか人間が侵入することは難しいだろう」
「古の魔女が住むに相応しいです!」
「お主、なかなか見ごたえのある男だな」
ダンは住まいを褒められて上機嫌になり、カルロ様を可愛がり始める。こんなところを皇帝陛下に見られたら、カルロ様のお命が危なくなるのでは……。
カルロ様の方はと言うと、エデンの何もかもが目新しく新鮮で、子供のように瞳を輝かせて目移りしていた。
ラディは大きくなり、悠々と羽ばたいている。
まだ夜ではないので珍しい生き物は見られないけれど、カルロ様にとっては全てが珍しいようで、あちこち移動しながら触ろうと試みたりしていた。
「うふふっ。カルロ様ったら……ここに住むと言いそうダンの庵から降りると、見上げたカルロ様は感嘆の声を上げた。 「中に居たら気付きませんでしたが、素晴らしい庵ですね!」 「フッ。当然だ。なかなか人間が侵入することは難しいだろう」 「古の魔女が住むに相応しいです!」 「お主、なかなか見ごたえのある男だな」 ダンは住まいを褒められて上機嫌になり、カルロ様を可愛がり始める。 こんなところを皇帝陛下に見られたら、カルロ様のお命が危なくなるのでは……。 カルロ様の方はと言うと、エデンの何もかもが目新しく新鮮で、子供のように瞳を輝かせて目移りしていた。 ラディは大きくなり、悠々と羽ばたいている。 まだ夜ではないので珍しい生き物は見られないけれど、カルロ様にとっては全てが珍しいようで、あちこち移動しながら触ろうと試みたりしていた。 「うふふっ。カルロ様ったら……ここに住むと言いそうな勢いね」 「あやつめ。触れると怒る生き物もいるというに」 ダンがそう言った瞬間。 「うぁっ!」 「カルロ様!」 「カルロ!!」 私たちが駆けつけると、足の長いイノシシの体躯をした生き物に顔を舐められている最中だった。 「この子はイノシシ、ではないのよね?」 「はるか昔の姿だな。もとは足も少し長かった……しかし随分気に入られたようだな、カルロ」 ダンは声をかけつつも助けようとはしない。 舐められ続けているカルロ様はこちらに助けを求めているのだけど……分かっていて放置しているような。 「ぶふっ……ぐっ……少し鼻を撫でただけ、なんですっ!」 「はっはっはっ。気持ち良かったのだろう」 ダンは大
どうやら手鏡が導いた場所はカルロ様の部屋だったらしく、窓辺に佇むカルロ様の後ろ姿が目に入ってくる。 そしてすぐに私たちの気配に気づいたのか、殿下は慌てた様子で振り返った。 「え……クリスティーナ?!それにオブシダン様?!!なぜお二人が……!」 『私もおるのですがね……』 「ふふっ」 私の肩に乗っていたラディがため息交じりに呟くのが可愛らしくて、思わず笑ってしまう。 「突然ご訪問してしまって、申し訳ございません」 「いや、いいんだ。嬉しいよ。オブシダン様もお会い出来て光栄です」 「フッ。前よりは挨拶ができるようになったではないか」 カルロ様は前にダンを怒らせたことがあるので、彼女の言葉にたじたじだった。 でも今はそんな事を話している場合ではないわね。 「カルロ様、私たちは一足早くカラドゥス王国へ行こうと考えているのです」 「……シェリアン王女の為かい?」 「はい。人質なので命の危険はないとしても、どのような扱いを受けているのか……心配なのです」 「相変わらず君は優しいね。私のもとへ現れたということは、私も一緒の方がいいのだろう?」 「はい……」 「もちろん一緒に行くよ。君が迎えに来てくれるなんて嬉しすぎるくらいなんだから」 そう言ったカルロ様はとてもご機嫌で、すぐに持ち物の用意をし始めた。 カルロ様がいらっしゃればカラドゥス王国の王城内も分かりやすいし、心強い。 それにカルロ様自身もカラドゥス王国でやりたい事があるでしょうし……お互いに一石二鳥のはず。 「さぁ、準備完了だよ」 「では参りましょう」 「まずは我の庵に寄るぞ。色々と
帰りの馬車にて。 私はドミニク様の膝の上に乗せられながら、馬車に揺られていた。 いつもなら馬車の中では穏やかな会話をしているけれど……今はそんな雰囲気ではなく。 ドミニク様がとても落ち込んでいらっしゃって、私自身もどういう言葉をかけていいのか分からなかった。 目の前で大切な姪が連れ去られてしまったのですもの。 そのショックは計り知れない。 もし私がその場にいれば防げたかもしれない。 私は自分がすぐに彼のもとへ行かなかったことを大いに後悔していた。 「ドミニク様」 私が声をかけると、いつもなら嬉しそうにこちらを見てくれるのに、今はとても目に力がない。 「どうしたんだい、ティナ」 その表情……無理に笑っていて、胸が痛くなる。 だからこそ伝えなくては。 「私、当初の予定よりも早くカラドゥス王国へ参ります」 「……なぜ?」 皇帝陛下の作戦は、カラドゥス王国を内と外、両方から叩くというものだった。 私とダンとカルロ王子が先にカラドゥス王国へ行き、カルロ王子が私を連れて来たという名目で王城へ乗り込み、私とダンの力で事城内を制圧する。 外からは皇帝陛下やドミニク様が帝国軍を率いて進軍し、完全にカラドゥス王国を制圧するというもの。 常に連絡を取り合いながら同時進行で進めていこうという話になった。 その作戦自体に問題はないし、私とダンがいれば城を制圧するのは容易いと思う。 でも————。 「制圧自体は大丈夫ですが、とにかくシェリアン様が心配で……彼女の無事や安全が確認できないと。国王陛下や王妃殿下にも早くお知らせしてあげたいですし……」
ダンスを一通り終えてそろそろドミニク様のもとへ行こうとした時、突如腕を掴まれて振り向く。 するとそこには本人が立っていた。 でもその表情は凍り付いていて、何か良くないことが起こったのがすぐに伝わってくる。 「ドミニク様……?」 「叔父上、何かあったのですか?」 「落ち着いて聞いてほしい……シェリアンが連れ去られた」 「「え?!」」 「詳しい事情は歩きながら話す。ひとまず王宮内へ行こう……!」 私とディクセル様は共に頷いた。 そして王宮内へ向かう間にドミニク様から事情を聞き、あまりの手際の良さに驚きを隠せない。 「そんな一瞬で……」 「私の失態だ……!すぐ隣にいたのに!」 「叔父上、相手も手練れです。失敗は許されない。とにかく今はシェリアンを救い出す方法を皆で考えましょう」 すぐに皆が集まる応接間へと到着し、扉は固く閉じられて鍵がかけられた。 王国の王女が連れ去られたことは、絶対に民に知られるわけにはいかないものね。 応接間には国王夫妻や皇帝陛下、バズズ様、セリス嬢、カルロ王子が待っていた。 国王陛下も王妃殿下も顔色が真っ青だわ……ディクセル様はお二人に寄り添う為に駆けていく。 そんな中、皇帝陛下が冷静に口を開いた。 「集まったか。カルロからも聞いたが、刺客は彼の教育係でもある爺や……カラドゥス王国先王の側近メディチ・パラボーナだ。隠密行動を得意とする男でもう引退したかと思っていたが」 「それほどカラドゥス王国も焦っているということでしょう」 皇帝陛下の御言葉にバズズ様が冷静に返す。 「奴らの要求は白の魔女、クリスティーナだ。帝国からリドメキシ
ティナとディクセルが二人でダンスをしているのをジッと見つめる。 恐らくディクセルはティナに気持ちを伝えるつもりなのだろう。 彼女に他の男が触れているだけで、血が沸き立つほどに嫉妬に駆られてしまう。 己の狭量さに自嘲するしかないな……ティナが他の男によそ見をすることなどないと分かっているのに。 ディクセルがティナへの気持ちを一区切りさせたいのだろうと分かっているのに。 私の額には魔女の印が刻まれているのだから。 額に手を当てるとティナの力を感じるようで、心が落ち着いていった。 そこへ明るい姪の声が聞こえてくる。 「叔父様、随分余裕がありませんのね」 「シェリアン」 「もう……そんなんじゃクリスティーナに逃げられちゃいますわよ」 「おいおい。不吉なことを言わないでくれ」 さっきまでの私の心の中を見ていたかのような言葉に、一瞬ドキリとしてしまう。 余裕がなさすぎだな。 そんな私を見かねたのか、シェリアンが少し離れたベンチで話をしようと誘ってくれたのだった。 「二人の姿があまり見えない方がいいと思いますの。行きましょう」 「そうだな」 シェリアンと共にベンチに座る……後ろは茂みだし誰かに会話が聞かれることもないだろう。 そして目の前には噴水が広がり、家族連れが賑わっている光景が広がっていた。 皇帝陛下は我が国の民の中に交ざって踊り、バズズ殿やセリス嬢が焦っている姿が目に入ってくる。 「フッ。陛下は自由奔放なお方だ」 「本当に。あのお方と一緒になるには並み大抵の方でなければ無理でしょうね」 「ははっ。違いない」 オブシダン様を選んだもの、本能がそうさせたのだろう。 黒の魔女ほどのお方でなくては彼に意見するのも難しいし
私たちが話しているところに、華やかな声が聞こえてくる。 「クリスティーナ、ドミニク様も。お待ちしておりましたわ!」 「シェリアン様!」 声をかけられるまで全く気付かなかった……というのもシェリアン様も仮装していたからだ。 全身真っ青の衣装に髪も水色のウィッグを着け、ベネチアンマスクを装着している。 「おとぎ話に出てくる雪の女王、でしょうか?」 「ご名答!見ているだけで寒そうでしょう?うふふっ」 「とても素敵です!本当の女王様のようですわ!」 「ありがとう」 王族であることも相まって、お世辞でもなく本当の雪の女王そのものに見えてしまう。 私の言葉にご機嫌ではしゃぐ姿も可愛らしい——。 「クリスティーナは猫ちゃんかい?」 「殿下?!」 ドミニク様に似た声に振り向くと、そこには魔王のような姿のディクセル王太子殿下が立っていたのだった。 シェリアン様と同じくウィッグをかぶっていらして、頭から角が生えている。 顔にはもちろんマスク……絶対に誰か分からないわ。 恐らく魔王様の仮装かと思い、臣下のように首を垂れて挨拶をした。 「魔王様、ご機嫌麗しくお過ごしでしょうか」 「フッ。我に跪くがよい」 「……うふふ」 「ははっ」 私たちは仮装した役になり切って会話を楽しんだ。 こういう行事の時はお互い身分を明かさずに無礼講が礼儀なので、私も殿下相手だけれど気さくに話すことができる。 「ねぇ、クリスティーナ。一緒に踊ろうよ」 「え?」 「叔父上、いいですよね?」 ディクセル殿下はドミニク様をジッと見つめた。 その目は真剣で
バタバタと王宮内を走り抜ける。 たしか裏庭にガゼボがあるから、早くそこへ行きたい……ほとんど人通りのない廊下を通り抜けて裏庭のガゼボにたどり着く。 そして中にあるベンチに座り、項垂れた。 「はぁ……はぁ…………っ」 荒い息を整えて、今の状況を頭の中で整理してみる。 一緒にいたナタリアという女性と結婚したいから、私との婚約を破棄したいと言うヤヌシュの顔は、今まで見た事もないくらい真剣で蕩けるような表情だった。 私には決して向けられることのなかった顔――。 本当に真実の愛を見つけたのね。 それは幼馴染として祝福してあげなければならなかったのかもしれない。 ただ、何もあの
涙を拭ってくれた手は私の頬に添えられ、やがてほんの少し触れるだけの口づけをかわした。 初めてのキスが愛する人で本当に幸せ。 「ふふっ、顔が真っ赤だ」 「仕方ないのです!初めてなのですから……」 「ふーん。ヤヌシュ君ともしたことはないの?」 ヤヌシュとは本当に友達の関係だったし、向こうに子供だと言われていたので、そういう雰囲気にすらならなかった。 この年になってキスが初めてなんて、引かれてしまうかしら。 「ヤヌシュともした事はありませんわ。この年で初めてなんて、恥ずかしい」 「恥ずかしがることはないよ、誰にでも初めてはある。ティナにとってその相手が私で、本当に光栄だ
「ティナとヤヌシュ君の婚約は、陛下の了承の元、解消する事が無事に決定したよ」 婚約破棄騒動があってから2日後、お父様が朝の食事の席で私に報告をしてくれた。 「そうですか」 お父様からの報告にとてもホッとしている自分がいる。 あんな事があってこれ以上婚約者でいる事は不可能だし、何よりお互いに想い人がいる状態なのだから、この婚約は解消した方が良かったのよね。 ヤヌシュの方にはナタリア嬢のお腹に彼の子供が宿っている。 不誠実な事をしていたとは言え子供に罪はないから、彼らの幸せを祈る事にしよう。 「まさかもうお相手のお腹に子供がいるとは驚きだけどね……」 私はこの婚
王家主催の夜会当日―――― 両親に無理を言い、今日はとびきりオシャレをさせてもらった。 ごくごく薄い水色を基調としたプリンセスラインのドレスに、腕はオフショルダータイプのパフスリーブで、胸元は大胆にあけてみた。 髪は綺麗な真っすぐのホワイトブロンドだと両親にもよく褒められるので、あまり結い上げずにブルーグレーの蝶のモチーフの髪飾りだけを着ける。 首元には派手すぎないジュエリーと扇を持ってエントランスに向かうと、ドミニク様がすでに迎えに来てくれていて、私を階下で迎えてくれた。 「ティナ、凄く素敵だよ。見違えた……すっかり大人の女性だね」 ドミニク様は私のドレス姿